アートを学ぶ

米倉 八作 Hassaku Yonekura
QUATTRO VITE -4つの命-

 

美術作品には、アーティストがそれを完成させた瞬間に生命が吹き込まれます。つまり作品は生き物と同じく、アーティストによって1点ずつに生命が与えられるものであり、その生命は何らかの目的や使命を持っています。この「QUATTRO VITE(4つの命)」では、それぞれのアーティストによる作品4点の「命」に光を当て、イタリアの美術評論家パスクアーレ・ディ・マッテオ氏が各作品の魅力について解説します

 

米倉八作は、伝統と現代性との中間に位置する、今を生きる画家。聖なるものと俗なるものをコンセプチュアルに融合させている。作品は、新約聖書や旧約聖書にまつわるテーマを再構築したもの。それを彼は、ラファエロやミケランジェロといったルネサンスの巨匠たちを彷彿とさせるスタイルで描いている。

ただし、米倉は過去の巨匠たちが語ったり、あるいは描いたりした情景を単に再現するだけにはとどまらない。精神的および物語的な意味を、より現代的な表現へと昇華させているのだ。

時に彼は、極めて詩的な個人的観点からキリスト教のメッセージを再解釈する。愛、母性、精神性といったテーマが、神聖さと人間らしさを兼ね備えた人物像として具現化された米倉のキャンバス。その作品は、色彩と構図の使い方が独創的であり、精緻な細部と即興的な感情表現のバランスが取れている。

米倉は厳粛で瞑想的な静けさを好むようだ。それは、この画家が表現そのものよりも、情景によって表現される概念的・哲学的なメッセージの方にむしろ大きな興味を持っていることから分かる。彼の作品は、単なる美術鑑賞にはとどまらず、精神的な領域にまで踏み込んだいにしえの物語と現代的な感性との間に接点を見出すよう、鑑賞者を促すのだ。

 

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21世紀の聖母子

21世紀の聖母子

油彩/キャンバス 91.0×72.7cm 2022

 

最初に紹介する作品は、古典絵画によく見られるテーマである「聖母子像」を現代的に再解釈したもの。米倉は、柔らかでありながら鮮やかさを併せ持つ色を用いている。特に目を引くのは、3人の登場人物が着ている、サンタクロースの服を彷彿とさせる赤い衣装。この赤は、画面から飛び出さんばかりだ。その他にもこの作品には、伝統的な聖母像を象徴するような青や茶などの色も使われている。繰り返しになるが、鮮やかな赤は聖母の顔を際立たせ、瞑想に耽るような静かな表情が鑑賞者の視線を引き付けるのだ。

登場人物の顔や手、衣装は精緻に表現されており、その正確な描写から母と子のつながりの強さや3人の親密さが伝わってきた。均一で重厚なマチエールは滑らかさと純粋さを感じさせ、聖母子という神聖なテーマに合致している。

人物は神の領域を暗示し、背景の諸要素は地上生活の比喩を思わせるが、この両者をバランスよく配した構図は見事である。画面奥のテーブルの上に置かれた本は、おそらく聖書であろう。同じく背後にある砂時計や兜とともに、社会生活とその中における選択を意味している。3本のろうそくにも注目してほしい。ここに描かれた聖母マリアとその子イエス、そして洗礼者聖ヨハネの3人、あるいは父(神)と子(イエス)と精霊の三位一体を表しているのではなかろうか。

 

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アルプスの聖母子

アルプスの聖母子

油彩/キャンバス 91.0×72.7cm 2021

 

聖母子像のバリエーションの一つであるこの作品で、米倉は聖性や世俗性を象徴するものにあふれた室内ではなく、アルプスの風景を3人の登場人物の背景として描いた。それは、すでに紹介した『21世紀の聖母子』との大きなコントラストを示している。

聖母の腕に抱かれた二人の子どもたち、そして背景の山々が作る三角構図は、鑑賞者に安定の感覚を伝えるものであると同時に、超越の象徴でもある。

ここでは、色彩がよりドラマチックな役割を果たし、背景に使われた寒色によってアルプスの厳しい気候を際立たせている。柔らかな人物と堅固な風景との対比は、根本的な価値観を保ちながらも変化を希望するという画家のメッセージを強調しているのかもしれない。

米倉の技法は『21世紀の聖母子』よりも実験的なものとなり、背景部分の自然の描写には極めて自由なタッチが使われている。

 

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アルプスの聖母子 ステンド

アルプスの聖母子 ステンド

油彩/キャンバス 91.0×72.7cm 2024

 

この作品は一つ前に紹介した『アルプスの聖母子』のテーマを、ゴシック様式のステンドグラス風に再構成したものである。

鮮烈な色彩がいくつにも分割されたことで、ステンドグラスと同じ効果が生まれ、作品はさらに神聖で永遠のものとなった。それぞれの断片間での色の移り変わりが重要なポイントであり、それによって光は、ガラスを透過することによって生じる視覚的効果を受けるのだ。

米倉のこの独創的な技法は、絵画というメディアを再解釈する卓越した能力を示すもの。そこには、細部に至るまで間近で観察するよう鑑賞者を促すような、魅力的な立体性も与えられている。以上のことから、『アルプスの聖母子』との違いが必然的に浮かび上がってくるのではなかろうか。身体や顔など人物の細部は簡略化され、より自由度を増している。一方、その表情は穏やかになり、背後の山々は明るく描かれた。

同じテーマを取り上げながら、ガラスの透過とモザイク状の分割によってイメージは全く異なる。この作品で米倉は、多角的な視点から人生を観察するよう我々を導いているように、私は感じた。

 

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聖母マリア

聖母マリア

油彩/キャンバス 72.7×60.6cm 2023

 

これまで見てきた3点とは異なり、この肖像画は聖母の姿に焦点を当て、物語や風景の要素はほとんど描かれていない。

聖母の顔は、この作品における感情の中心。光に対する並外れた感受性を駆使して描かれており、同じ光が聖母の周囲に集う敬虔な人々をも照らし出した。聖母の明るい肌と暗い背景とのコントラストは、ルネサンス期の肖像画を彷彿とさせる一方、どこか不安な感覚も漂わせている。

背景の欠如がかえって聖母の力強さを強調する効果を生み、普遍的な聖像としての存在感を高めた。筆致は非常に繊細かつ正確であるが、画面を詳細に観察すると、想像できる部分全てをピクセル単位に至るまで厳密に捉えようとまではしていないようだ。むしろAI(人工知能)のように、米倉は本質だけを輝かせている。

簡潔でありながら効果的な構図が、鑑賞者との直接的な感情をつなぐ優れた作品だ。

最初にも触れたように、米倉八作の芸術表現は、聖と俗、伝統と革新の架け橋となるものだ。彼は独創的な色遣い、構図、象徴性によって、過去の偉大な巨匠たちに敬意を表するだけでなく、現代的な視覚言語でそれらを再解釈している。

 

鑑賞者の心に語りかける4点の掲出作は、聖書の物語を新しい視点から探究する機会を提示している。それは、現状を理解するために、異なる視点から物事を捉えようとする隠喩的な招待状でもあるようだ。

聖書の物語を借りて、その登場人物を一貫したスタイルとテーマで描く彼の作品は、熟考と非凡な感性の産物である。宗教的なテーマに対するユニークなアプローチによって、米倉は独創的で興味深い詩情を備えた芸術家となった。

 

評:パスクアーレ・ディ・マッテオ氏

 

[Profile]
米倉 八作 Hassaku Yonekura
本名米田浩二。1977年九州工業大学卒業。専門は化学。サラリーマン時代は農薬、抗ウイルス商品の開発に従事。定年後に油絵を描き始める。題材は主にキリスト教絵画とメルヘン絵画を並行して制作。美術エッセイを大学の同窓会誌に連載中。 北九州市立足立小学校・中学校、福岡県立小倉西高等学校卒業。画家、美術エッセイスト、俳人、世界遺産ツーリスト。