聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ
淡く溶け合うような輪郭と色彩。そこからあなたはどんな風景をみつけるだろうか。
現在、REIJINSHA GALLERYで個展「us」を開催している水橋日和は、武蔵野美術大学に通う学生でもある。会期初日の2月20日(金)、会場にてギャラリースタッフが話を聞いた。
◆風景に包まれる

個展会場にて出展作品《星を見ること》シリーズを観る水橋
──今回が企画画廊での初めての個展ということですが、今の心境はいかがですか?
正直なところ……追い詰められています。
──えっ! 大丈夫ですか?
あ、今は大丈夫です! 体調が悪いわけではないのですが、実は予想外に別な展示と本展の作品提出の期限が重なってしまって。生活のためにアルバイトもあまり休むわけにもいかず、ここ最近が自分としてはものすごく忙しかったんです。なので、作家として将来を考えた時に「こんな生活を自分は続けられるだろうか?」と不安になっています。
ただ、これは私自身のスケジューリングの甘さが原因でもあるので、今後はもっと余裕をもって計画を立てていくつもりです。
──なるほど、そういうことだったのですね。まずは本当にお疲れ様でした!
多くのアーティストが異なるお仕事に就きながら制作に励まれていますが、その両立にはみなさんが苦労されています。その分、ギャラリーは出来る限りのサポートをさせていただきますので、どんなに些細なことでも相談されてください。
ありがとうございます!
──健康第一ですからね!
さて、今回の個展タイトル「us」はどういった経緯でつけられたのでしょうか?

出展作品《us 5》2026年 油彩/パネル 18.2×25.7cm
私は風景をよく描くのですが、風景を眺めていると自分自身が“風景に包まれて存在している”という感覚になることがあるんです。そういった視点で世界を見ると、人は公園に、公園は街に、町は地球に、そして地球は宇宙に包まれています。
そして本展の表題作「us」は、フランスの焼き菓子ガレット・デ・ロアの中に入れられる「フェーヴ」という小さな陶器人形をモチーフに描いた作品です。
──「切り分けられたケーキの中にフェーヴが入っていた人には幸運が訪れる」といわれる、おみくじのようなものですよね?
そうです。フェーヴの形は様々なのですが、人や動物を象ったものが多く、それらがケーキに包まれている様子は風景に包まれている私たち自身の姿と同じだな、と感じたので、今回の個展タイトルに決めました。
◆見るということ

出展作品《星を見ること 2》2025年 油彩/綿布 19.0×40.5cm
──今回の個展に向けての作品制作では、どんなことを意識されましたか?
先にも触れたとおり、私はずっと風景画を描いてきましたが、大学3回生になって「これまでと違うことをやらなきゃ」という気持ちが出てきました。そこで取り組んだのが「星をみること」と「us」と名付けたシリーズです。どちらも異なるアプローチで“見る”という行為そのものを表現することを目指しました。
──水橋さんの作品は、輪郭を曖昧に描かれたモチーフが特徴的ですが、これにはどのような意図があるのでしょうか?
このスタイルで描き始めたのは予備校時代なのですが、当時の私は生真面目に物体の輪郭を追うことばかり意識していました。一方で、先生からは「輪郭を追うな」と何十回も言われて。物体の形や色に対する先入観は中々拭えず、もうどうしたらいいかわからなかったので「いっそ目が悪くなりたい」とばかり考えていました。
でも、ある日何気なくスマホで写真を撮ったらピントがずれていて、その画像をみた時に「これだ!」と思ったんです。それをきっかけに、自分なりのリアルな世界の表現として現在のスタイルを追及してきました。

出展作品《水景》2025年 油彩/綿布 100.5×149.0cm
──なるほど、一見抽象的ながらどこか現実味のある作品の秘密が理解できました。
作品に描くモチーフはどのように選ばれているのですか?
風景に関していえば、それぞれに対して特に思い入れがあるわけではありません。私は自分がひとり心穏やかに過ごせる場所を常に探しているので、そういった場所が見つかるとスケッチをして、キャンバスに描き起こすようにしています。
でも、「水景」で描いた多摩湖は好きでよく行くので、そういった意味では思い入れのある風景ですね。
◆受賞、そしてこれから

《部屋》2024年 油彩/綿布 112.0×162.0cm
──昨年は公募展「第43回上野の森美術館大賞展」にて優秀賞を受賞されました。大きな公募展での受賞はこれが初めてのことだとお聞きしましたが、当時の心境はいかがでしたか?
受賞の連絡をいただいたのは休みの日だったのですが、結果を伺ってすぐに母と祖母に報告をしてからは嬉しさで浮足立ってしまって、ずっと散歩をしていました。でも時間と共に不安になってしまって……。
──ああ! また気持ちが沈んでしまったのですね。
「これが最後の受賞歴になってしまったらどうしよう」という気持ちが大きくなってしまいました。
──オリンピックのメダリストも同じ心境になるという話を聞いたことがあります。ただ、どんな賞も挑み続けた先にあるものですから、不安に負けず引き続き取り組んでいただけたら嬉しいです。
受賞後、水橋さんの周りでは何か変化はありましたか?
私は学部卒業後の進路として大学院に進みたいのですが、ずっと母に反対されていました。でも、受賞後は「いいんじゃない?」と突然認めてくれたので驚いています(笑)。賞という形で客観的な評価をいただけたことで、母も安心してくれたのだと思います。

出展作品《あなたの中の私》2025年 油彩/麻布 105.0×79.5cm
──この4月で学部の4回生になられますね。今年はどんな1年にしたいですか?
自分の制作ペースを掴んで、無理の無いスケジュールを組めるようになりたいです。そして卒業制作もやってくるので、100%の力を出せるよう調整したいと思います!
──今後挑戦したいことや興味を持っていることがあれば教えてください。
「レジデンス」という、一定期間特定の土地に滞在して制作と展示を行うものがあるのですが、今後機会があればぜひ挑戦したいです。
──最後に、ご来場になる皆様にメッセージをお願いします。
この度は個展「us」にご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。この規模の個展は今回が初めてで、自分自身反省点はたくさんあるのですが、ぜひ、皆さんそれぞれの視点や感覚で作品と向き合っていただけたら嬉しいです。本展示が皆様にとって、何かを考えるきっかけや心に残る体験になれば幸いです。

会場に自身が集めたフェーブを並べる水橋
“見る”行為そのものという哲学的なテーマを描きつつ、温かな世界を表出させる水橋日和。今まさに注目を浴び始めた彼女の作品は、観る者の心のあり様やライフステージによって異なる景色を見せてくれることだろう。ぜひ会場でご覧いただきたい。
水橋日和個展「us」は2月13日(金)まで、REIJINSHA GALLERYにて開催中だ。
[Profile]
水橋 日和 Hiyori Mizuhashii
2002年
千葉県生まれ
2023年
武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻入学
2024年
shades(REIJINSHA GALLERY/東京)
2025年
個展「round」(喫茶オーレ/東京)
第43回上野の森美術館大賞展優秀賞受賞(上野の森美術館/東京)
KOBE ART MARCHÉ 2025(神戸メリケンパークオリエンタルホテル/兵庫)
someday, somewhere(Art Gallery TOKYU PLAZA GINZA/東京)
2026年
個展「us」(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、東京都にて制作
武蔵野美術大学在学中
Instagram hiyooooom_509

[information]
水橋日和 US
・会期 2月20日(金)〜3月6日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜日、月曜日
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery