アーティスト

「ジャポニカ – 日本美術の小さな宝物たち – 」グランプリ受賞作家
倉橋完治インタビュー

《太古の聲 S-3》2025年 アクリル/キャンバス 41.0×41.0cm「ジャポニカ2026」グランプリ

《太古の聲 S-3》2025年 「ジャポニカ - 日本美術の小さな宝物たち - 」グランプリ

フランスのパリ16区に位置するリンダ・ファレル・ギャルリーを舞台に、2026年3月11日から3月30日の日程で「ジャポニカ - 日本美術の小さな宝物たち - 」が開催された。この展覧会の前身である「サロン・ド・アール・ジャポネ」は、2019年から10回にわたって開催され、芸術の都・パリで日本美術を観ることができる場として親しまれてきたが、2026年春に「ジャポニカ - 日本美術の小さな宝物たち - 」として新たに生まれ変わった。
「家庭に飾りやすいサイズの作品をたくさん観たい」というパリのアートファンの要望に応え刷新された本展には、日本から112名のアーティストが参加した。多数の出展作から見事グランプリに選ばれたのは、倉橋完治のアクリル画『太古の聲 S-3』。
独立美術協会会員であり、中学校の美術教諭としての経歴を持つ彼に、作品のテーマや制作活動についてインタビューをおこなった。

倉橋のポートフォリオを見るアラン・バザール(フランス芸術家協会絵画部門代表)

倉橋のポートフォリオを見るアラン・バザール氏(フランス芸術家協会絵画部門代表)

 

初めて挑戦した海外展で高い評価を得る

──グランプリの受賞、おめでとうございます。海外で評価された感想はいかがですか?  また、海外で評価される意義について聞かせてください。

大変ありがたく、素直にうれしいです。国内のコンクールなどには幾度となく出品してきましたが、海外ではどのような評価を受けるのかを知りたいとも考えており、今回初めて海外で開催される企画に作品を出展しました。出展作以外にも会場に設置したポートフォリオによって、外国でも自分の作品を多くの方々に見ていただけたことがありがたかったですね。日本の一地方でコツコツと制作を続けてきた自分にとって、海外展でのグランプリ受賞という評価をいただいたことは制作の励みになりますし、自信を与えていただいたという思いです。これからも自分のテーマを掘り下げていけるように頑張ります。

──受賞作品『太古の聲 S-3』は、どのような思いや意図で制作しましたか?

私たちは現在、インフラや医学、情報文化などに見られる科学の発展や先人の英知の上に成り立つ便利で住みやすい社会に生きています。そして、これからは「AI」に代表されるような、不可能を可能にする発展を遂げていくでしょう。この現状を大昔の人が知れば何と言うでしょうか。
科学の発展に驚く反面、大切なことを忘れていないかと嘆くかもしれません。人間は何でもできると思い込み、自然の強さを忘れていると声を出すかもしれない。私は、そんな自然の強さを表現できたらと考え、格闘してきました。この『太古の聲 S-3』という作品にも、そんな思いを表現しています。

 

描く喜びを知り、絵の道を邁進した

《新生〜風〜》2017年 第85回独立展 佳作賞

《新生〜風〜》2017年 第85回独立展佳作賞

──どのようなきっかけで絵を描き始めたのでしょうか?

学生時代に美術部に入って絵を描き始めました。就職後は絵から離れましたが、結婚して生活が落ち着くと、絵を描きたいという思いが再び湧き上がってきたのです。そこで、夕食後にテーブルの上を片付け、絵の道具を出して描き始めました。食卓では30cm程度の大きさの画面を描くのが精一杯でしたが、純粋に楽しくてしかたがなかったですね。

──学生時代から絵を描くのが好きだったのですね。どのように制作スキルを身につけたのでしょうか?

中学3年生の時、油絵を描いてみたいと思い、水彩絵具にサラダ油を混ぜて描いたことがありました。なぜ固まらないのか不思議に思って人に聞くと、絵具も溶き油も専用のものがあると知ったのです。実際に油絵をやってみると、間違いだったことや知らなかったことが山ほどありました。だから、疑問に感じることがあったら違う方法はないかと考え、それでも失敗したら人に尋ねるようにしたのです。
運がいいことに、私は多くの方々にさまざまなことを教えてもらう機会を得られました。「どうしたらこんな表現ができるのだろう」と思いながら、他人の作品や画集もよく見ていたものです。今も自分で試してみてわからないことがあれば、恥をかいてもいいので教えてもらうようにしています。

《楔 no.2(CUBE)》

《楔 no.2(CUBE)》2020年

──周囲の人に教えを請いながら、積極的に技法を身につけたのですね。
金属や木を素材に用いた立体作品も手掛けられていますが、どのように作業しているのでしょうか? 

金属を素材にした作品は自宅にある小型溶接機で作りますが、少し大型のものになると知り合いの鉄工所で制作させてもらっています。ただし、鉄工所の都合もあるので制作できる時間には制約があり、毎日作業することはできません。

──平面作品と立体作品では、制作意図や強調したいポイントに違いはありますか?

基本的に、モチーフとなる自然のもの(木や石など)と人工的なもの(鉄やガラスなど)の組み合わせは、絵画と立体作品どちらにも共通しています。しかし、立体の場合は、立体特有の材料から受けるインスピレーシヨン、直感に沿った制作を大切にしています。対象をそっくりそのまま作ることには興味がありません。

 

太古から脈々と続いている自然界の聲

《太古の聲No.1》2019年 第83回独立美術協会展 山田賞

《太古の聲No.1》2019年 第87回独立展山田賞

 

──近年制作された複数の絵画作品に共通する「太古の聲」というテーマについて、詳しく聞かせてください。

古来、人間は気の遠くなるような時の流れの中で、多くの知恵を身につけて文明を発展させ、優れた社会システムを構築し、暮らしを豊かにし、利便性を追求し実現してきました。その一方で、多くのものを失ってきたのではないでしょうか。
しかし、人間として生きている私たちは「本来持っている力」のすべてを失っているわけではありません。少し立ち止まって耳を澄ませば、太古から脈々と続いている自然界の聲(声)が聴こえてくるのです。
私たちはその聲を聴きいて何かを感じ取り、自身の内に秘められた「自然の力」をかてとして生きる力にしていかなければならないと私は思います。

《太古の聲〜生命力No.1〜》2019年

《太古の聲〜生命力No.1〜》2019年

 

──「太古の聲」シリーズに描かれているモチーフの中には、手など人間の身体の一部を思わせるものがありますね。

モチーフの「平面や球体のガラスや、ガラスに反射するビル、コンクリート」などは、自然が作り出すことのできないものを文明の象徴として描いています。一方で、自然界が悠久の時の流れを通して生み出した「岩塊や生き物」は、人間が作り出すことができないものの象徴。その二つを対比的に描いています。
人間は「自然を自由に操ることができる」と勘違いしてはいないでしょうか。どれほど強固に作り上げられた社会でも、自然はそのエネルギーでいとも簡単に乗り越えてくるのです。
美しく、大きな力を持つ自然。太古の人々は、そんな自然の素晴らしさだけでなく、怖さや強さも知っていました。だからこそ、私たちは彼らの聲に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

《2020熊本豪雨災害》2020年

《2020熊本豪雨災害》2020年

 

──モチーフがテーマを比喩的に表しているのですね。あなたの作品に共通する要素としては、その他に立方体が挙げられます。モチーフが立方体の中に凝縮されているような印象を受けますが、この表現の意図を教えてください。

人の一生は傍から見れば、限られた時空の中での「生」ではないかと時々思うことがあります。人間はそれぞれ自分の空間を持っており、限られた時間の中に「生」がある。こうした考えが、私が描く立方体という要素の根底にあります。

《LIFE》2010年

《LIFE》2010年

 

──中央に胎児が描かれた『LIFE』など、いくつかの作品には変形キャンバスが使われています。作品を展示するうえでのこだわりはありますか?

私が生きているこの瞬間、この場所で感じることを、自在に表現できたらどんなに楽しいでしょうか。
気候変動や地震などの天災、季節の移り変わり、日本文化ならではの静寂など、その瞬間に自分の心を動かしたものを日記のように描きたいと思っています。目の前の災害を悲しんだり、春の桜にすがすがしさや生きる喜びを感じたり……。私が感じた色彩や形の面白さなどを、作品を通して観る人に伝えられたらうれしいです。だからこそ「LIFE」シリーズを展示する場所は、街角など誰もが気軽に見られる空間でもいいのではないかと思っています。

──独立展出展作をはじめ、普段は100号を超える大きなサイズの作品を描くことが多いと思いますが、「ジャポニカ」出展作はS6号でした。小さな作品を描くうえで意識されたことが何かありますか?

大きなキャンバスに描いている絵を、小さな画面に同じ構図で描いたとしても伝わるものは違うし、サイズに応じた表現内容や方法があるはずだと思います。ジャポニカ出展作では、大画面の時のような迫力は出せないかもしれませんが、同じテーマを表現しているので、伝わる表現はできるはずだと考え制作に取り組みました。そこで、主題を表すために必要なもの以外は省略しました。

──なるほど。今回「ジャポニカ2026」でグランプリを受賞した『太古の聲 S-3』は、これまでの「太古の聲」シリーズとは違って、立方体ではなく矩形を使って、要素を削ぎ落としたよりシンプルな画面構成になっていますね。

以前、大画面のエスキースとして小さいサイズの立方体を描いたことがあります。数枚描いてみましたが、なかなかイメージ通りのものができず、サイズを大きくして描くなど試行錯誤の連続でした。作品サイズと内容の関係に悩んだというわけです。
ジャポニカ出展作では41.0×41.0cmという比較的小さいサイズの画面で、大画面と変わらないテーマをどのような形で表現したらいいか考えました。立方体では広がりを感じないものになると思い、必要な要素だけを残して正方形の中に表現することにしました。

ギャラリー・オーナーのアヌッシュ・マスク

ギャラリー・オーナーのアヌッシュ・マスク氏

 

海外での個展開催を目指す

──いろいろなお話を聞かせていただき、ありがとうございます。試行錯誤を重ねたうえで、グランプリを受賞されたことがわかりました。
最後になりますが、今後の目標を教えてください。

とにかく自分のテーマを展開し、単なる小手先のアレンジなどには終わらないようにして、自身の思いと表現がピタッと一致したといえる絵を描いていきたいです。
また、いつかは海外でも個展を開きたいと考えていますが、そのためにはまだまだ力不足だと感じるので、日々努力し続けます。地元の九州での発表はいくつか予定してます。ただ、銀座での個展は2019年に2度目を開いて以降はコロナ禍などもあり実現できていません。そのため、これからはさまざまな場所で積極的に作品を展示していきたいと思っています。

《CORE〜フォティゾ〜》2024年 第91回独立展 出展作

《CORE〜フォティゾ〜》2024年 第91回独立展出展作

 


独自のテーマに沿って試行錯誤を重ね、優れた作品を生み出し続ける倉橋完治。彼の作品は、国内のみならず、「ジャポニカ - 日本美術の小さな宝物たち - 」を通じてパリの人々の記憶にも刻まれたことだろう。

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[Profile]
倉橋  完治 Kanji Kurahashi

2015年
第83回独立展 新人賞
青木繁記念大賞西日本美術展 奨励賞
銀座ギャラリー暁 二人展
2016年
第84回独立展 佳作賞
田川美術館 第25回記念 英展 佳作
2017年
第85回独立展 佳作賞
銀座ギャラリー暁 個展
2019年
銀座ギャラリー暁 個展
第87回独立展 山田賞
2026年
「ジャポニカ - 日本美術の小さな宝物たち - 」グランプリ
現在
独立美術協会会員

出展予定
第38回熊本独立展
・会期 2026年6月16日(火)〜21日(日)
・会場 熊本県立美術館分館

彩祭京展
・会期 2026年8月4日(火)〜9日(日)
・会場 ギャラリーヒルゲート(京都)

第71回人吉球磨総合美展
・会期 2026年10月10日(土)〜15日(木)
・会場 人吉市カルチャーパレス

第93回独立展
・会期 2026年10月14日(水)〜26日(月)
・会場 国立新美術館

第93回独立展 地方巡回展 福岡展
・会期 2027年2月16日(火)〜21日(日)
・会場 福岡市立美術館