聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ
車窓から見える街並みや、静かな部屋の空気。かわかみはるかの作品には、日常の機微や気配が静かに描き出されている。SNSへ投稿された猫作品もたびたび話題を集め、その独特な視点に惹かれる鑑賞者も少なくない。
REIJINSHA GALLERYで開催される企画展「猫会議2026」への出展を控えるかわかみに、制作の背景や猫という存在について、同ギャラリースタッフが話を聞いた。
◆猫を描く

《理想》
──Xでは、かわかみさんの猫作品がたびたび話題となっています。反響を受けて変化したことはありますか?
ギャラリー等でおこなわれる展示に初めて足を運んでくださる方が増えたことですね。
どうしても画像と実物で作品の印象が異なるところがあるので、実物を観ていただけるのはとても嬉しいですし、直接ご感想をお伺いできるのも作家冥利に付きます。
──作品に登場する黒猫は、ご自身を投影した存在だと伺いました。猫をモチーフに描き始めたきっかけを教えてください。
風邪をひいた時など、自分が弱ってる時にふと鏡を見てボロボロの情けない野良猫みたいだなぁと感じたのがきっかけです。私自身の姿で描くよりも猫の姿で描いた方が、気負わず素直に描けるような感覚があります。
──かわかみさんにとって猫はどのような存在なのでしょうか?
実家に猫がいたのもあり、身近な生き物のように感じています。私はよく散歩するので、その道中で見かける自分と同じフラフラしてる生き物という仲間意識もあるかもしれません。
作品の中でいえば、最初は自分の分身のようなものとして描いていましたが、描き続ける中で段々「君は何がしたい? どんな風に大きくなりたい?」といった気持ちが芽生え始め、子どものような存在に変化しています。
◆積み重なった時間を描く

修了制作《産声が塵になるまで》2026年
──武蔵野美術大学大学院の修了制作展で研究室賞を受賞された『産声が塵になるまで』は、大変印象的な作品でした。本作にはどのような制作背景があったのでしょうか?
作品を制作しようと思ったきっかけは、亡くなった曾祖母の家を取り壊す前に一度見に行った時の情景が、強く記憶に残ったからです。
私も幼少期を過ごしたその家の数十年間分の生活を感じられる生々しさ、と曾祖母がいなくなってから積もった塵を目の当たりにしたとき、“人は生涯の中で途方もない時間を積み重ね、いつかはその全てを手放さなくてはならない”ということを描きたいと思いました。
全ての人が、人生の中で大切な人を失うことは何度かあるでしょうけれど、どうしたって最後は自分も大切な人を残す側になる。そのことについて考える時間が必要だったのだと思います。
──作品はどのようなプロセスで制作されていますか?
普段の生活であったり旅先で見た印象に残る景色をその場でスケッチし、スケッチで満足できないようであれば日本画で制作します。
その時々の悩みや感情を見た景色に重ね合わせて描くことが多いのですが、あまり内向的になり過ぎずできるだけフラットに作品や物事と向き合いたいため、悩んだら物理的に絵と距離を取って散歩しながら考え事をし、ある程度考えがまとまったらまた筆を取るを繰り返しています。
自分の中で気持ちの整理がついていれば自然と手も動くので、悩み事が解決して前向きになれている頃には作品もだいたい完成しています。
◆視界の外側を描く

FACE2024 優秀賞受賞作 《26番地を曲がる頃》2022年
──かわかみさんの描く風景においては、画面の中で空間を広く見せる表現も特長的です。どのような意図があるのでしょうか。
見たもの感じたものを正直にそのまま描きたいと考えた時、自分の視界の中からトリミングして構図を考えるのではなく、視界の端から端までを一枚に収めるのが自然なように思ったため、そのような構成にしています。
──車内や部屋など、閉じた空間をモチーフにされることも多いですが、その理由についてもお聞かせください。
パーソナルスペースの中で起こる出来事に関心があるため、車内や部屋が多くなりがちです。たまに「監視カメラのようだ」と言われます。
どれだけ私が人や景色に対して目を凝らしていても、見えない側面もあること、全ては把握しきれないことがもどかしかったり面白かったりします。そういったカメラの画角外のようなことを想像していると、絵の中にも私が決めきれない要素が欲しくなるので、車内や部屋の窓の外をよく好んで描きます。
──影響を受けたアーティストはいますか?
ハンマースホイ※はずっと好きです。どの作品がどこの住所の家なのかまでわかるところが、本当にこの景色が存在したんだなという気持ちになります。絵のタイトルに番地が入っているのを無性に真似したくなり真似てみたのが、FACE2024で優秀賞を受賞した『26番地を曲がる頃』です。
他にも影響を受けたアーティストや作品は沢山ありますが、黒が魅力的な作品であることと身近な景色やモチーフを題材にする作家であることが一貫してあるように思います。
※ヴィルヘルム・ハンマースホイ
静かな室内風景を多く描いたデンマークの画家。人物の気配や空間の静寂を感じさせる作品で知られる。
◆「猫会議2026」に向けて
──今回の出展作品の見どころを教えてください。
「猫会議」という展示タイトルが印象的だったので、今回はいろんな会議をしている猫の絵を描いています。今まで描いてきた猫の作品はほとんどが一匹でいる猫なのですが、会議に参加している猫なので、いつもの猫以外にも絵の中に猫だったり人だったりがいます。
今まで以上に物語性がある作品になると思いますので、作中でどんな会議がおこなわれているのか想像していただけたら嬉しいです。
──今後の活動で挑戦したいことはありますか?
年内に今まで展示した事のない環境での展覧会をいくつか予定しているので、展示空間やシチュエーションに合わせて表現をどのように変化させていけるかチャレンジしたいです。作品を発表するということについて改めて考え向き合う必要がありますね。
──最後に、ご来場される皆様へメッセージをお願いします。
空間いっぱいに猫がいる展覧会になると思いますので、ぜひ癒されにいらしてください。
かわかみはるかが出展する「猫会議2026」は、6月5日(金)よりREIJINSHA GALLERYにて開催される。
[Profile]

かわかみ はるか Haruka Kawakami
2001年
福島県生まれ
2020年
武蔵野美術大学造形学部日本画学科入学
2024年
武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業
武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻日本画コース入学
FACE 2024 優秀賞受賞(SOMPO美術館/東京)
第9回石本正日本画大賞展 (浜田市立石正美術館/島根)
FACE選抜作家小品展2024(REIJINSHA GALLERY/東京)
2025年
武蔵野美術大学日本画学科岩田壮平ゼミ展 JUNCTION(新生堂/東京、松坂屋名古屋店/愛知)
個展 「love letters」(画廊一兎庵/東京)
第5回ARTIST NEW GATE入選者展(あべのハルカス/大阪)
第6回ぎふ美術展日本画部門優秀賞受賞 (岐阜県美術館)
30の顔2025(REIJINSHA GALLERY/東京)
2026年
2025年度武蔵野美術大学卒業・修了制作展研究室賞受賞(武蔵野美術大学/東京)
武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻日本画コース修了
個展「まるく なくなって 好きになる。」(アートスペース銀座ワン/東京)
<昨日・今日・明日>30周年記念展(柴田悦子画廊/東京)
猫会議2026(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、東京都にて制作
・Instagram ___soboro
・X @____soboro

[information]
猫会議 2026
・会期 2026年6月5日(金)〜6月19日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery