聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ
カラフルな屋根が並ぶ街並みや、どこまでも広がる青空。そんな明るくのどかな風景を描きながら、観る者に言葉にしがたい違和感を抱かせるアーティスト、都築まゆ美。
今回、REIJINSHA GALLERYで開催される企画展『CINEMA』へ彼女が出展するのに合わせ、同ギャラリースタッフが制作の裏側について話を聞いた。
◆描くということ

出展作品《Mist》2026年 油彩/キャンバス 31.8×41.0cm
──都築さんはイラストレーターとして活躍されつつ、現在はアーティスト活動へと主軸を移しておられます。どちらも創作という意味では共通していますが、どのような違いがあるのでしょうか?
イラストレーターとしての仕事は、クライアントの意図やテキスト(物語)という「明確な目的地」があり、そこへ向かって並走する作業です。一方で、アーティストとしての活動は、自分自身の内側にある言語化できない違和感や初期衝動から出発します。目的地を決めずにキャンバスに向かい、描くごとに答えを探していくような感覚です。
ただ、クライアントワークであっても私の作風を理解してご依頼いただくので自由に描かせてもらうこともありますし、個展に向けてのオリジナル作品でもギャラリーの空間に合わせてテーマを設定したりします。そういった意味では、今の私にとっては両者にそれほど大きな違いはないのかもしれません。

リソグラフ(孔版印刷の一種)による作品
色ごとに異なる版で刷るため、独特の色むらやズレが生じ、個体差のある仕上がりとなる。
──過去のインタビューにて、ご両親の影響から自然と美術の道へ進まれた旨のお話を拝見しました。都築さんから見たお二人はどのようなご両親でしたか?
デザインの仕事をしていた父と、洋裁講師をしていた母。両親とも美術に造詣が深く手先が大変器用でした。母は健在で、91歳の今も毎日家事や庭の手入れ、自分の服作りをしています。
──ご両親からはどのような影響をうけられましたか?
受けた影響としては大きく分けて二つあります。一つは、常に創作の材料が家の中に溢れていたことです。二人が使わなくなった大量の紙のサンプルや布のハギレ、さまざまな資材が私にとってのおもちゃでした。
もう一つは、アートやデザインが暮らしと地続きであったことです。両親ともに西洋美術が好きで、海外の美術館にも多く訪れていましたが、彼らの実際のものづくりは常に「衣」と「住」という生活に直接結びつくものでした。特に住まいに関しては、設計や配線から家具にいたるまで、父があらゆることに自分で手を加えていました。私が大学でインテリアデザインを専攻したのも、現在の作品が「家に飾る」ということを前提としているのも、その環境の影響がとても大きいと感じています。
──創作活動において、どのようなことがモチベーションになっていますか?
「気づき、イメージし、形あるものにしていき、見てもらう」という活動の一連の流れの中で、自分がどこに一番ワクワクするのかを改めて考えてみたのですが、それは「雑然としたイメージを目に見える形あるものに繋げていく一瞬」かもしれません。頭の中で構成を組み立てていく中で、ある一部分がピッタリとハマった感覚や、アイデアがひらめいた瞬間、脳内物質が溢れ出るような高揚感があります。
もちろん、描くという行為自体も、完成した作品を通して人と共感できることも、大好きですし大きな喜びです。ただ、制作は同時にとても地道で忍耐のいる作業でもありますから、あの「ひらめきが繋がる瞬間」の快感とそれを成果として形あるものにしたいという欲求がモチベーションになっているのだと思います。
◆自分にとってのリアルな世界

《Edge of Ordinary》2022年 油彩/キャンバス 65.2×91.0cm
──都築さんの近年の作品を見ると、一見穏やかな日常風景のようでありながら、非現実感や不穏さといった違和感を同時に覚えます。なぜでしょうか?
私たちが生きている日常は、一見すると穏やかで平穏ですが、実はとても危ういバランスの上に成り立っているのではないか、という感覚が常にあります。私たちは日々、その危うさの中でどうにかバランスを取りながら生きている。
その両義性をベースに、私の作品では、光と影のコントラストを強調したり、あえて人物を気配で表現したり、具象でありながら想像の余地を残したりしています。そうすることで、日常の裏側を覗く機会を意識的に仕込んでいます。
──以前、作品をご覧になられた方から「リミナルスペースのようだ」という感想があり、ご自身でも調べられたそうですね。リミナルスペースの概念とご自身の作品との共通点は何か感じておられますか?

「リミナルスペース」のイメージ(AI生成)。
映像クリエイターKane Parsonsが2022年に公開した短編映像作品をきっかけに話題となり、この作品を元としたホラー映画が2026年5月に全米で公開された。
リミナルスペース(境界空間)とは、ビルの廊下や待合室、夜の遊園地といった本来人が行き交う場所が無人になったときに覚える、奇妙な高揚感と喪失感が同居する空間のことだと知りました。
私が描きたいのも、まさに「かつて誰かがいた気配」や「これから何かが起こる予兆」といった、時間の隙間に取り残されたような空間です。どこかへ移動する途中の、誰のものでもない空間が持つ独特の寂しさと美しさは、私の作品の根底にあるテーマと通じていると感じます。
──都築さんはご自身の作品の持つ空気感について「アメリカン・ノスタルジー」と表現されています。なぜ「アメリカ」なのでしょうか?
私にとって「アメリカ」とは、リアルな国そのものというよりも、世代的に深く親しんできたアメリカの映画や文学、音楽などから影響を受けて脳内に構築された「原風景としてのトポス(場所)」に近いものです。
高度経済成長期に生まれた私にとってアメリカ的なものは「繁栄の光と歪みの影」だったように思います。幼いながらに、勧善懲悪なアニメや明るさだけを強調するTVCMにどこか違和感を覚えながらも、それでもアメリカの文化に強く惹かれたのは、アメリカという国が内包する「光と影」そのものに、不思議な親しみを覚えたからでもありました。
どこまでも続く乾いた道路、ダイナーの灯り、郊外の住宅地。それらの多くは私自身が直接体験した過去ではないはずなのに、なぜか強烈なノスタルジーを掻き立てられます。あの時代に肌で感じ取っていたアメリカ文化のポップさと、その裏に潜む孤独感や虚無感。それらが、私が絵を描き始めた頃から一貫してテーマとしている『両義性』や『記憶の共有』そのものであると気づいた時から、この「アメリカン・ノスタルジー」という表現は私の作品の根底に流れ続ける原風景となりました。
◆企画展『CINEMA』について

出展作品《Midsommar》2026年 油彩/キャンバス 41.0×31.8cm
──この度は「映画」をテーマとする企画展『CINEMA』にご出展いただきますが、元々映画はお好きですか?
映画は好きですがそれほど詳しいわけではなく、監督や俳優の名前はあまり覚えていないタイプです(笑)。
ただ、作品のトーンとして強く惹かれるものは明確にあります。好きな映画を挙げるなら、『もう終わりにしよう。』『ヘレディタリー/継承』『イット・フォローズ』など。
──どのような物語や世界観に惹かれますか?
ドラマチックで明快なハッピーエンドのものよりは、どこか割り切れない余白が残る物語や、不条理な世界、あるいは美しいホラーに惹かれます。登場人物の沈黙や、カメラが捉える光の移り変わり、背景の静けさによって感情を語るような映画です。
監督であれば、アリ・アスターやデヴィッド・リンチの世界観に惹かれます。特に圧倒的な狂気や、理屈が通用しない不条理、アリ・アスター作品のぶっ飛んだ世界観は大好きです。人間の深淵にある歪みやコントロールできない狂気が、緻密な美しさの中にむき出しで置かれていることこそに、強烈なリアリティとクリエイティビティへの刺激を感じるからかもしれません。
──今回の出展作品について、それぞれ題材とした映画の選考理由や、描く上で意識されたポイントについてお聞かせください。
今回は、好きすぎて具体的なワンシーンが瞬時に浮かんでしまうような映画はあえて避けました。そうではなく、映画をイメージした瞬間にキャンバスに落とし込みたいモチーフや情景が抽象的な残像として浮かび上がってきたものを選んでいます。
また、「風景の中に建物が印象的に存在する」という共通のイメージで描写してみました。
──最後に、ご来場になる皆様へメッセージをお願いします。
題材となった映画をすでにご覧になった方とは、作品を通して「そうそう、この空気感!」と共感し合ったり「自分はまた違うイメージだったな」といった面白い対話ができたら嬉しいです。また、まだご覧になっていない方には、その映画に興味を持つきっかけになればこれ以上の喜びはありません。
九者九様の物語の解釈を、ぜひ会場で自由に、贅沢にお楽しみください。
光と影、虚無と歪み。日常に潜む危うさに目を向けつつも、そこに美しさを見出す都築の視点は、見知ったこの世界を異なるフィルターを通して眺めるきっかけを与えてくれることだろう。
企画展『CINEMA』はREIJINSHA GALLERYにて、6月26日(金)より開催される。
[Profile]

都築 まゆ美 Mayumi Tsuzuki
1966年
東京都生まれ
1988年
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリアデザイン専攻卒業
2023年
WAVE | New Currents in Japanese Graphic Arts(JAPAN HOUSE/イギリス)
2024年
個展「LIFE」(chignitta/大阪)
個展「Whose Memory? 記憶のふち」(Otherwise Gallery/東京)
乙女モード かわいいだけじゃ物足りない(Bunkamura Gallery 8/東京)
2025年
ONE ART Taipei 2025(JR東日本大飯店台北/台湾)
WAVE 2025(LURF GALLERY/東京)
Beyond the WINDOW -クリス智子と暮らしとアート-(大丸東京店)
個展「Everyday Fantasy」(GALLERY ROOM・A/東京)
個展「Favorites」(FEELSEEN GINZA/東京)
2026年
三人展「Layers」(tagboat/東京)
三人展「Tracing Light」(YOD TOKYO)
個展「Familiar Stranger」(銀座蔦屋書店/東京)
CINEMA(REIJINSHA GALLERY/東京)
他、出展多数
現在、神奈川県にて制作
・Instagram tsuzuki_mayumi
・アーティストサイト https://www.mayumi-tsuzuki.com/
■展覧会予定
個展「Pairs - Paint & Print」
・会期 2026年7月21日(火)〜7月26日 (日)
・会場 L’illuster Galerie LE MONDE/東京
・開催時間 12:00~20:00 ※最終日17:00まで
・URL https://www.galerielemonde.com/
※詳細は上記URLよりご確認ください。

[information]
CINEMA
・会期 2026年6月26日(金)~7月10日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery