コラム

温故知新 vol.27
「絵を描こう」

文=松本亮平

当コラム『温故知新』では、「絵を描く者」の視点から先人の作品を鑑賞し、その技法や発想を学ぶことをテーマとしてきた。自ら絵を描くようになると、絵を見る楽しさも一層大きくなる。国や時代を超えて画家の工夫や苦労に共感することができる。

 

◆模写のすすめ

私は幼少期より現在に至るまで絵を描くことが楽しくて仕方ない。なぜなら、現実では出会うことがない生き物同士を対話させたり、絵の舞台背景を自由に設定したり、自分の見てみたい光景を作ることができるからだ。
一方で、幼い頃は夢中で絵を描くことができたが、大人になって苦手意識を持つようになった方もいるだろう。では描く楽しさを取り戻すにはどうすればよいのだろうか。私がワークショップや絵画教室の指導をしていて感じる苦手意識の根源は主に以下にあるように思う。

・何を描いていいかわからない。(画題)
・画面にどのように収めるべきかわからない。(構図)
・描きたいテーマを表現する方法がわからない。(技法)
・美術館で見た絵やSNSに投稿されている上手な絵と比較してしまう。(自己評価)

上記の苦手意識は好きな名画を模写することにより克服できると思っている。名画は現実世界の面白さや絵になる特徴を抜き出して目の前に提示してくれている。明暗や構図、色などが主役を引き立てるように整理されている。画家がどのような意図で画面を整理したのか想像しながら追体験をしてみてほしい。

 

◆私の模写

私は西洋絵画の基本を学ぼうと考えた2010年頃に、好きな画家の模写から始めた。身近な自然風景や生き物に興味があったため、自然をあるがままに描く「バルビゾン派」の画家を中心に模写をした。
優れたバルビゾン派のコレクションを持つ村内美術館にて実物を鑑賞した。その中でも特に気に入ったカミーユ・コロの『少年と山羊』の模写をした。森の木々は多様な緑で丁寧に描写をされているが、あくまでも主役を引き立てる暗い背景として抑えられている。それにより主役の少年と山羊が明るく浮き出して見える。
当時の私は森の中の風景を描く際、木々の葉の細かな明暗の差に気を取られていた。そのため、画面全体の大きな明暗のバランスまで意識できていなかった。この模写を通して主役を引き立てるための画面構成を学ぶことができた。

※ジャン=バティスト=カミーユ・コロー

松本亮平《少年と山羊》の模写 2010年 水彩、水彩紙 27.3×22.0cm

《少年と山羊》の模写 2010年 水彩/水彩紙 27.3×22.0cm

 

◆模写からの応用

一人の画家の絵をある程度の枚数模写をすると特徴が掴めてくる。模写によって技法や構図の考え方を理解すると、オリジナルの作品へ応用できるようになる。
私は2015年頃に『鳥獣戯画』の模写をして動物たちの動きをコミカルに表現する技術を学んだ。それを応用して長さ約40mの絵巻物『動物界における百の寓意』を制作した。100種類のことわざを動物たちの行動で表現した作品である。『鳥獣戯画』に見られる動物たちの動きを誇張してその行動を分かりやすく伝える技術が役に立った。この経験は私の作品に今も大きく影響を与えている。

松本亮平《動物界における百の寓意》2015年 墨/和紙 34.0×380.0cm

《動物界における百の寓意》2015年 墨/和紙 34.0×380.0cm

松本亮平《動物界における百の寓意》部分「ウサギとカメ」

《動物界における百の寓意》部分「ウサギとカメ」

松本亮平《動物界における百の寓意》部分「どんぐりの背比べ」

《動物界における百の寓意》部分「どんぐりの背比べ」

 

一つの画風で絵を描けるようになると毎日のありふれた経験が絵になることに気づく。季節の花や、そこに飛んでくる虫や鳥、ペットと遊んだことなど、身近な体験も絵の題材になる。
絵を描くことで、何気ない日常の風景が少し彩り豊かに見えてくる。

松本亮平

松本亮平《耄耋図》2026年 アクリル/板 53.0×45.5cm

《耄耋図》2026年 アクリル/板 53.0×45.5cm

 

松本 亮平(まつもと・りょうへい)
画家/1988年神奈川県出身。早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修了。
2013年第9回世界絵画大賞展協賛社賞受賞(2014・2015年も受賞)、2016年第12回世界絵画大賞展遠藤彰子賞受賞。2014年公募日本の絵画2014入選(2016・2018年も入選)。2016年第51回昭和会展入選(2017・2018年も入選)。2019年第54回昭和会展昭和会賞受賞。個展、グループ展多数。
HP https://rmatsumoto1.wixsite.com/matsumoto-ryohei
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